長野県佐久市|NASH(非アルコール性脂肪肝炎)・脂肪肝の予防・治療の研究

What is "NASH"?万病のモト“脂肪肝”とは

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脂肪肝とは「肝臓に脂肪がたまっている状態」

皆さんは脂肪肝と聞いてどのようなイメージを持たれるでしょうか。
肥満、メタボ、健診‥?脂肪肝とは字の通り「肝臓に脂肪がたまった状態」で、アルコールやある種の薬剤でも生じますが、太り気味の方に多く合併するため、メタボリックシンドロームの肝臓病と言われています。肝機能異常は人間ドックで最も高頻度に指摘される項目と言われています。実に健診を受けた約3割の方が「肝臓の値に異常あり」と言われており、その多くが脂肪肝やアルコールです。
もし皆さんが「脂肪肝があります」と言われた場合、「肝臓に脂肪がたまっているだけじゃないか」と軽く流してはいけません。なぜなら脂肪肝は糖尿病や動脈硬化、そして肝硬変や肝がんの原因となりえるからです。
深刻な病気になる前に「万病のモト」の肥満や脂肪肝を直し、ご自身をベストの状態にリセットすること、我々は皆さんに強くお勧めしたいです。

【脂肪肝も肝硬変になることがあります】

肥満、糖尿病、高血圧、脂肪肝で受診されました。肝臓の表面は滑らかで、肝臓も柔らかそうです。数年後、肥満、肝機能が改善されず、数年後に再検査しました。肝臓の表面はゴツゴツとし、肝硬変の一歩手前まで進んでいました。

出典:Tanaka et al. Pharmacol Ther 2017

NAFLD(Non-alcoholic fatty liver disease: 非アルコール性脂肪肝疾患)とは

腹部超音波やCTなどの画像検査で、脂肪肝がわかります。
NAFLDはアルコール以外の原因で起こる脂肪肝の総称です。“非アルコール性”とはいえ、一滴もお酒を飲まない人だけではなく、少量のお酒を飲む人の脂肪肝もNAFLDに含まれます。1日あたりのエタノール量にして、男性で30g以上、女性では20g以上のお酒を毎日飲み続けると、アルコール性肝障害を起こすことがあるといわれています。これはビールならば男性で1日あたり750mL、日本酒なら1合半、ワインはグラス2杯半、ウイスキーではダブルで1杯半に相当します。よって、1日あたりの飲酒量がこれより少ない人(女性ではその2/3よりも少ない人)にみられる脂肪肝がNAFLDということになります。

【脂肪肝の腹部超音波画像】

脂肪肝の腹部超音波画像

肝臓に脂肪がたまると、腎臓の外側に比べて、肝臓が白っぽく、光っているように見えます(bright liver)

【脂肪肝、NAFLD、NASHの関係】

脂肪肝、NAFLD、NASHの関係

非アルコール性脂肪肝炎(NASH)は肝生検で診断します。お酒をたくさん飲まない脂肪肝(NAFLD)でも、特に肥満やメタボリックシンドローム、糖尿病を合併する場合、肝硬変や肝がんにも注意が必要です。

NASH(Non-alcoholic steatohepatitis:非アルコール性脂肪肝炎)とは

NASHとはNAFLDの中でも肝炎が合併する病型です。肝臓の一部を針でとって顕微鏡で見ることで(肝生検)診断することができます。ウイルスやアルコールによる慢性肝炎と同じように、放置すると徐々に肝臓が硬くなっていき、腹水や黄疸、肝がんの原因となります。実際、2000年以降、日本でもB型肝炎・C型肝炎に関連しない肝がん・肝硬変が増えており、NAFLD/NASHがその原因の一つと考えられています。

【本当は怖い脂肪肝】

どうしてNAFLD/NASHになってしまうのでしょうか

肝臓は、腸で吸収したさまざまな栄養素を取り込んで分解したり新たに合成したりして、バランスよく全身に供給する大事な役割を担っています。
食事でとった糖分はグリコーゲンとして肝臓に貯蔵されますが、余った分は中性脂肪に変換されて肝臓にたまります。もちろん、食事で余分にとった脂肪分やアミノ酸も過剰な分は脂質に変換されます。食べ過ぎや運動不足で摂取カロリーが消費量を上回ると、肝臓で中性脂肪が多く作られ、脂肪肝(NAFLD)となるわけです。
また肥満・メタボリックシンドロームの人では血糖値を下げるホルモンであるインスリンの効きが悪くなり(これを“インスリン抵抗性”といいます)、このことも脂肪肝を助長します。インスリンの効きが悪いと血糖が下がりにくくなり、血糖や中性脂肪が高くなり、糖尿病や動脈硬化へとつながります。
食べ過ぎ、飲み過ぎ、運動不足を見直して体重を減らすと、脂肪肝や血糖、中性脂肪も改善してきます。
また、NASHの発生には糖・脂肪過剰による細胞ストレス、免疫系の変化や腸内細菌などが関連していると考えられています。

【食べ過ぎと運動不足が脂肪肝の主な原因】

食べ過ぎと運動不足が脂肪肝の主な原因

食事量を減らし、運動量を増やすと余分に蓄えられた栄養素が消費されるとともにインスリンが効きやすくなるので、脂肪肝・血糖・中性脂肪は改善してきます。

NASHの問題点

多くの人がなっている

日本でNAFLDとなっている方は2000万人と言われており、健診受診者の約30%がNAFLDであったという報告もあります。
今後もNAFLDの患者さんは増え続け、2030年には2000万人を大きく超え、肝臓の線維化が進行したひとは100万人を超えることが予想されています(1)。肥満のひとはNAFLDになりやすいのですが、アジアでは肥満でないひともNAFLDになりやすいこと分かっています(2)。現代の国民病と考えられます。

(1) Estes C et al., J Hepatol 69:896, 2018
(2) Seto WK et al., J Gastroenterol 52:164, 2017

Estes C et al., J Hepatol 69:896, 2018

生活習慣病の源である

NAFLDは「生活習慣病の源」と言われています。多くは肥満が背景にあり、血糖を下げるインスリンの効きがわるくなるインスリン抵抗性が強くなることで発症します。そして、NAFLDが進行すると、糖尿病の発症、高血圧や脂質異常症などの生活習慣病が悪化していきます。さらに進行すると脳卒中や心筋梗塞、がんなどにもなりやすくなります。はやくNAFLDを治すことが必要です。

伊藤裕, 日内会誌 107:1913, 2018

くい止めることはできる

NAFLD/NASHの原因として、過食、運動不足、そして遺伝的な要因が指摘されています。食事や運動を改善することでNAFLDは改善することが知られています。特に肥満のひとは減量することで、NAFLDの進行をくい止めることができます。

治療法

NAFLDの治療法については、日本消化器病学会・肝臓病学会の「NAFLD/NASH 診療ガイドライン2020 改訂第2版」が参考になります。治療のフローチャートは下記の通りです。

※1:肝生検を施工していないが線維化が疑われるNAFLDはNASHの可能性を検討し治療する
※2:保険適用は、①6ヶ月以上の内科的治療が行われているにもかかわらずBMI35kg/㎡以上であること、②糖尿病、高血圧、脂質異常症、睡眠時無呼吸症候群のうち1つ以上を有していることと定められている
※3:基礎疾患それぞれに適応の薬剤にビタミンEを適宜追加する
※4:本邦ではNAFLD/NASH治療として保険適用になっていない
(注)各段階において各々の基礎疾患に準じた治療を適宜追加する


NAFLDの診断で「肝生検」はゴールデンスタンダードですが、対象者の多さから全例に行うことは困難です。そのため「線維化が疑われる場合はNASHの可能を検討」して治療することになります。ここからはNAFLD/NASHの場合の治療についてお話しします。
肥満がある場合は、食事・運動療法による減量を目指します。目標は現体重の7%以上の減量です。7%の減量で肝臓の脂肪が軽減します。例えば、80kgの人は約6kgの減量が目標となります。さらに10%以上の減量で肝臓の線維化が改善することが報告されています。
減量の食事療法としては、カロリー制限が推奨されています。その際には、炭水化物もしくは脂質を少なくした食事が提案されています。加えて、果糖の摂り過ぎの改善、甘い飲みもの・加糖飲料を少なくすることも大切です。
運動療法については、ウオーキングなどの有酸素運動と筋力トレーニングなどのレジスタンス運動、両方とも脂肪肝の改善には効果があります。具体的な運動目標はまだ明らかではありませんが、1週間に3〜4日を目安に無理なく定期的かつ継続的に運動することが大切です。
一方、糖尿病、脂質異常および高血圧などの基礎疾患のある方は、それぞれの病気の治療薬でNAFLD/NASHの改善が期待できるものが示されています。かかりつけの先生とご相談ください。
肥満でなく基礎疾患もない場合には、抗酸化作用のあるビタミンEを摂ることが勧められています。

予防法

NAFLD/NASHの予防は次の3つをこころがけて下さい。
1)体重の管理
定期的に体重を測定して、肥満(BMI≧25)にならないように注意します。肥満の方は更に体重が増えないようにしてください。
2)定期的な検査
健診などで定期的に検査を受けて、肝機能や耐糖能が悪くなっていないかどうかをチェックしてください。血液検査が正常でもNAFLD/NASHとなる場合がありますので、腹部超音波検査も定期的に受けることをお勧めします。
3)食事・運動など生活習慣の改善
食事は①腹八分目、②甘いもの・加糖飲料を減らす、③野菜を多く摂る(野菜1日350g目安)、④炭水化物の摂り過ぎに注意してください。また、加工食品の食べ過ぎにも注意してください。運動は①ウオーキングなどの有酸素運動と②筋力トレーニングなどのレジスタンス運動を行います。1日30分以上、週に3〜4日を目安に継続的に身体を動かして下さい。

検査方法

健康診断などで肝機能異常を指摘された場合には、まず超音波検査などで脂肪肝があるかどうかを確認します。同時に他の肝臓病(B型肝炎、C型肝炎などのウイルス性肝疾患、自己免疫性肝炎、薬剤性肝障害など)がないかどうか、これまでの飲酒量が基準範囲内※ かどうか、を調べます。脂肪肝以外に肝障害の原因がみとめられない場合、NAFLDと診断されます。
※1日あたりエタノール換算で、男性で30g未満、女性では20g未満。(男性を例にとると、ビールならば750mL、日本酒なら1合半、ワインはグラス2杯半、ウイスキーではダブルで1杯半に相当します)

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